えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『ふんどしニッポン 下着をめぐる魂の風俗史』を読みました。

読書ノート2022年No.14は、『ふんどしニッポン 下着をめぐる魂の風俗史』(著 井上章一/朝日新書/初版2022年5月30日)

もう半世紀以上も昔のこと、私が小学生時代を過ごしたのは、新潟の小さな田舎町。

1年生のときの身体測定で、ほとんどの男児が「猿股」を履いているのを見て、母親に、私も「ブリーフ」ではなく、「猿股」にして欲しいとせがんだことを今でも覚えています。

自分だけ違うのが、よほど気になったのでしょうが、その後どうなったのかすっかり忘れてしまいました。

本書は、国際日本文化研究センタ-所長の井上先生が、「ふんどし」をテーマに近代日本の風俗を紹介するもの。

井上先生には、女性の下着にまつわる『パンツが見える』という著書がありますが、本書では水着と下着を取り上げて、150点を超える写真・図版を紹介しながら「褌の盛衰」を追うとともに、褌と日本の精神文化との関係も考察しています。

本書によれば、近代日本の衣生活が和装から洋装に推移していく中で、男性の上着は洋装化が進むものの、女性たちの上着は和装が中心。

けれど泳ぐときには、女性は早くから洋装のスイムウエアを着用する一方、男性は1950年代の前半くらいまでは、褌が当たり前。

女性にズロースが広がり、時を経て男性の下着も次第に猿股が目につくようになっても、軍隊では褌こそ「大和魂」のやどる衣装で、猿股などもってのほか。

20世紀後半になり、女性の目もあって、褌は水着としても使われなくなり、存在が危うくなるものの、その“希少性”から、神事や祭礼での威光は増すことに。

とにかく興味深い話の連続で、井上先生の深い洞察には感心するばかりでしたが、珍しい写真・図版にも目を奪われ、世相の移り変わりを実感することになりました。

昭和初期の男女別プールを写した写真。ベルリンオリンピックの水泳会場で撮影された、褌ひとつで練習する選手の姿。1955年の日米対抗水泳大会で撮影された、褌姿で旗手を務める選手の姿…。

軍隊の写真は別として、褌に着目すると、どれも「隔世の感」という言葉がぴったりです。

ところで井上先生によると、褌は環太平洋地域の衣装であり、褌をしめる文化は東洋ではなく、南洋の裸族と通じ合っているそうです。

褌姿は日本男児の象徴のように言われることがありますが、都市伝説のようなものかもしれません。