えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『命のクルーズ』を読みました。

読書ノート2022年No.15は、『命のクルーズ』(著 高梨ゆき子/講談社/初版2022年3月31日/装幀 大久保伸子)

本書は、新型コロナウイルスの集団感染が起きた、大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の救援活動の実態を描いたノンフィクション。

読売新聞の編集委員である著者が、活動の中心であったDMAT(災害派遣医療チーム)の医師たち、医療関係者、クルーズ船の乗客・乗員を取材し、船の中で何が起き、救援活動がどのように進んだのか、その事実を明らかにしたものです。

ダイヤモンド・プリンセスの乗客の感染が初めて報じられたのは2020年2月。

その頃日本の感染者はまだわずかで、集団感染といってもどこか他人事のように見ていた記憶があります。

しかも、神戸大学の岩田教授が投稿した「告発動画」がきっかけで救援活動に対する批判が高まってからは、詳しい事情も知らないくせに、自分も同じような気持ちになっていました。

ところが本書によれば、DMATは、自然災害の被災地域で活動するボランティアの医師たちであり、そもそも集団感染の起きた現場で仕事をするのは筋違いであったこと。

当初の目的は、あくまで船外での「患者の搬送」であったのが、感染拡大で船内での救援活動に従事せざるを得なくなったこと。

未知のウィルスに対する不安と葛藤、勤務先の病院との軋轢を抱えながらも、乗客と乗員の窮状を救うために、混乱を極める船内で献身的な活動を繰り広げたこと。

DMATなくして救援活動は立ち行かず、自身の使命を胸に、懸命に取り組む医師たちの姿を本書で目の当たりにして、頭を下げるしかありませんでした。

ところでこの救援活動は、「告発動画」の影響もあり、失敗したかのように思われがちです。

けれど、櫻井滋・岩手医科大学教授の話によれば、「検疫が始まる前に感染した人の検査が進んで、陽性が判明していく過程を、国民は見ていた」とのこと。

そうであれば決して失敗とは言えないはずですが、指摘された事実を知る人は限られている気がします。

DMATの一人は、「告発動画」のせいで救援活動に批判が高まる中、「なんで俺が、ワイドショーに非難されなきゃいけないんだ」と思ったそうです。

想像もつかない困難があったのに、それが考慮されることなく、謂れのないバッシングを受ける。

医師たちの胸中を察すると心が痛みましたが、私もバッシングをした側と似たり寄ったりだったはずで、それを思うと複雑な気持ちになってしまいます。

本書によれば、ボランティアを基本とする日本のDMATのやり方は、海外では“クレイジー”だそうです。

この先、新しいパンデミックがいつ起きないとも限らないだけに、この集団感染を教訓にして組織のあり方を検討し、次への備えを固めることは急務でしょう。

それは、この惨事で犠牲になった方々に対する責任でもあるはずです。