えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『妻はサバイバー』を読みました。

読後ノート2022年No.13は、『妻はサバイバー』(著者 永田豊隆/朝日新聞出版/初版2022年4月30日/装画 椎木彩子)

本書は、精神疾患を抱えた妻を持つ著者が、20年に渡る闘病の日々を包み隠さず綴ったルポルタージュ。

朝日新聞の記者である著者は、結婚して4年目、2002年の秋に、妻の過食嘔吐に気づき、妻が摂食障害であることを知ります。

その原因は、幼少の頃に親から受けた虐待にあったのですが、著者は妻の暴言や暴力にも苦しめられ、激しい過食のために家計は破綻寸前。

妻には、解離症状や幻覚症状、自殺衝動が現れ、知り合いの男からセクハラを受けていた事実も明らかになります。

そして妻は何とか精神科病院に入院するものの、自傷行為や妄想は続き、入退院が繰り返され、さらにアルコールにも依存するようになって肝機能障害が進行。

仕事をしながら、妻を支え続けてきた著者も疲弊し、とうとう自身が適応障害と診断され、3カ月間の休職。

やがて妻は、専門家のカウンセリングによって、徐々に回復の兆しを見せますが、「水中毒」に見舞われ、さらに「肝硬変」と「大腿骨頭壊死症」を発症。

ついには「アルコール性認知症」であることも判明するのですが、その後アルコールを断つことができ、現在は、在宅でケアを受けているそうです。

20年にわたる闘病の記録は、まさに想像を絶するもの。過酷とも言える日常から、著者が逃げ出さなかったのは驚きでしかなく、本書を読んでいる間、「自分には到底できない」と思い続けていました。

著者が妻に寄り添い続けたのは、もちろん妻への思いが途切れなかったことが一番の理由でしょう。

ただ、困難な日々を過ごすなかで、新聞記者としての問題意識が生まれたことや、職場や同僚の理解があったことも、著者を助けたのかもしれません。

ところで本書では、日本の精神科医療をめぐる様々な問題も明らかにされています。

その中で特に気になったのが、日本の精神科医療は、長年、治療よりも隔離を目的とする「収容主義」だという指摘。

そのため、精神障害者と出会う機会のない一般の人に、「怖い」「危険」「何をするかわからない」といった誤ったイメージが広がり、精神障害者に対する偏見が精神障害者とその家族を苦しめ、追い詰めている事実を知りました。

著者は、「“隠すべきもの”という空気が社会に満ちていては、当事者は安心して助けを求めることができない」と語っています。

精神障害者に対する見方を変えていかなければならない。そう思わずにいられませんでした。