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『さいはての中国』を読みました

さいはての中国 (小学館新書)

2018年76冊目の読了は、『さいはての中国』(著 安田峰俊/小学館新書 初版2018年10月8日)です。書店で目にして手に取りました。

政治、経済の問題から市民生活に関係するものまで、中国のニュースが流れない日はなく、中国人旅行者とおぼしき人は、街のいたるところで見かけます。

しかし、国同士は複雑な問題を抱えたまま。社会のしくみや国民性がまったく違うからか、よくわからないことも多く、身近な存在とまではいきません。それだけに、14億人もの人が住む巨大国家は一体どんな国なのだろうかと、ついつい興味を持ってしまいます。

本書は、ノンフィクション作家で、中国をテーマにした作品を多く手がけている著者が、中国国内外を取材し、“誰も気にとめず注意を払わない現代中国の未知の素顔”(著者はこれを「さいはての中国」と言っています)を紹介したルポルタージュで、月刊「SAPIO」の掲載記事を改稿したものです。

本書に登場するのは、広東省・深圳の一角、貧しい短期労働者や失業者があふれる地区で、稼いだお金をインターネットゲームにつぎ込む若者たち。広州にあるアフリカ系住民だらけのアフリカタウン。陝西省にある習近平国家主席の父、習仲勲の生誕地に整備された巨大な公園(習仲勲陵園)。習主席の肝煎りで、突然副都心の候補地となった河北省の田舎町。内モンゴル自治区に雨後の筍のように出現している「鬼城」と呼ばれるゴーストタウン。南京市にある中国人慰安婦をテーマにした博物館。カナダのトロントで、日本の第二次大戦中の戦争犯罪を告発する組織を率いる香港系カナダ人など。

多くの日本人にとっては、ほとんどが未知の世界でしょうが、これこそ著者の面目躍如に違いありません。

もちろん紹介されているエピソードも、初めて知ることばかりです。
繁栄経済の発展とは無縁で、ゲームの世界でしか希望や喜びを味わえない若者。アフリカとの結びつきが強まる一方、中国人に広まるアフリカ系外国人に対する差別や偏見。政権の意向によって大きく変わってしまう暮らし。個人の尊厳や感情など考慮されず、政治・外交のカードとして使われる慰安婦問題。

世界の政治・経済における中国の台頭はめざましいものがあり、ともすればその勢いに目を奪われてしまいます。しかしその陰で、急激な発展や極端な政策が作りだした矛盾・混乱が社会に横たわっていること、また強権的な政治が想像以上に広く社会を支配していることは紛れもない事実です。

印象的だったのは、「社会全体として強い権威に支配されることに慣れている。庶民はどうせなら強いリーダーに従ったほうがいいと考えている」という著者の指摘。強大な権力を掌握する習主席とそれに功利的に付き従う国民のことを考えると、中国のパワーはまさに底なしのように思えてきます。

読後感(興味深かった)