えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『旅のつばくろ』を読みました

旅のつばくろ

2020年18冊目の読書レポートは『旅のつばくろ』(著 沢木耕太郎/新潮社/初版2020年4月20日)。書店で目にして手に取りました。

今から40年以上も前、『敗れざる者たち』が沢木さんの著書との初めての出会い。その後に読んだ『テロルの決算』の強い印象は、今もしっかり残っています。

私のノンフィクション好きは、沢木さんの影響大かもしてません。

本書は、JR東日本の新幹線車内誌「トランヴェール」に連載されている沢木さんの巻頭エッセイから、41編を選んで収録した一冊。

「トランヴェール」は、帰省で上越新幹線を利用する際に必ず目を通しますが、沢木さんが寄稿しているのを見て、ちょっと驚いた覚えがあります。

沢木さんといえば、海外を旅する人のイメージ。国内の“旅エッセイ”は意外だったからかもしれません。執筆の経緯は本書で知りました。

エッセイは、沢木さんが、東北、東京近郊、北陸、北海道を旅する様子を綴ったもの。

けれどその旅は、沢木さん十六歳の春休み、国鉄の東北周遊券を使った一人旅の記憶を辿る旅であり、沢木さんの原点を探る旅。

そして、就職した会社を1日で辞め、“書くこと”を仕事にしてからの印象的な出来事や忘れ難い出会いを思い起こす旅でもあります。

少年らしい緊張感や心細さにとらわれながらも、人の心の温かさを味わった一人旅。

作家の吉村昭氏の一言から生まれ、今も続く“人の縁”。

イラストレータ黒田征太郞さんの「 “なりつづけること”は難しい」という忠告。

駆け出しの頃、奥羽本線の列車の中で行ったインタビューを通して受けた永六輔さんの“レッスン”…。

エッセイは小品で、文章は飾らず軽快ですが、どの話も味わい深く、心に残ります。

また、「人生のうちで、面として知っている土地をいくつくらい持っているか、それは人生の豊かさに直結している。」

「後悔なしに人生を送ることなどできない。たぶん後悔も人生なのだ。」

「眼の前にある仕事を、ただ手を抜かず書いてきただけだ。たぶん、私はどんな小さな仕事、どんな短い文章でも手を抜いたことがないはずだ。」

沢木さんの言葉も胸に響き、自分の歩んできた道を思い浮かべることがしばしばありました。

新型コロナウイルスの影響はいつまで続くのかわかりません。けれどいつかの日か、観光旅行などではなく、 沢木さんのように“自分の人生を振り返る旅”をのんびりとしてみたい。

今はそんな気持ちでいっぱいです。