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読んだ本と出来事あれこれ

『戦争はいかに終結したか 二度の大戦からベトナム、イラクまで』を読みました。

戦争はいかに終結したか-二度の大戦からベトナム、イラクまで (中公新書 2652)

2021年26冊目の読書レポートは『戦争はいかに終結したか 二度の大戦からベトナム、イラクまで』(著 千々和泰明/中公新書/2021年7月25日)。書店で目にして、手に取りました。

本書は、防衛省防衛研究所主任研究官である著者が、日本ではほとんど研究されてこなかった「戦争終結」について論じたもの。

まず、戦争終結の形態は、「紛争原因の根本的解決」と「妥協的和平」のジレンマの中で、優勢勢力側が「将来の危険」と「現在の犠牲」のどちらを重視するかによって決まるという視点を提示。

これをふまえ、「第一次世界大戦」、「第二次世界大戦〈ヨーロッパ〉」、「第二次世界大戦〈アジア太平洋〉」、「朝鮮戦争」、「ベトナム戦争」、「湾岸戦争・アフガニスタン戦争・イラク戦争」の戦争終結に至る経過を詳しく分析し、最後に、日本の安全保障について、検討を加えています。

著者によれば、「紛争原因の根本的解決」となったのは、二つの世界大戦、アフガニスタン戦争、イラク戦争。

「妥協的平和」となったのが、朝鮮戦争、ベトナム戦争、そして湾岸戦争。

終結までの道筋は単純ではなく、当事者の思惑、国内事情、戦いの優劣など様々な要素が複雑に絡み合いながら、「将来の危険」と「現在の犠牲」のきわどいバランスの中で“着地点”が決まっています。

戦争は国の運命や国際情勢を変えるものですが、ちょっとした風向きの変化が、歴史を作ってしまうのは、考えると怖いこと。

「ソ連参戦前に日本が降伏していたら、アメリカは朝鮮半島全土を占領できた」、「首尾よくソ連の仲介が得られたら、日本は戦後、ソ連の勢力下におかれる危険があった」という著者の指摘は、それを実感させます。

それにしても、国体護持のため、国民の犠牲を顧みずに「一撃和平」にこだわり、幻想に過ぎなかった「ソ連仲介」に望みをかけていた日本の指導者には、ため息しか出てきません。

劣勢に追い込まれても、戦争終結について真剣に考えることを避け、勝ち目のない戦いをずるずる続ける。

そのために奪われた命がたくさんあるはずで、それを思うと、やり切れない気持ちになります。

ところで、アフガニスタンでは、アメリカ軍の撤退に乗じてタリバンが政権を掌握。各国から懸念が表明されるなか、爆弾テロが起き、現地では混乱が続いています。

アメリカ軍が撤退するのは、もはや「現在の犠牲を払うつもりはない」ということでしょう。

日本の安全保障はアメリカが頼みの綱。アメリカは、日本のためなら、どんな事態になっても「現在の犠牲」を厭わないのだろうか。そんな思いが頭をよぎりました。