えむと、メモランダム

読み散らした本と出来事あれこれ

『物価とは何か』を読みました。

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2022年読書レポートNo.6は、『物価とは何か』(著者 渡辺 努/講談社選書メチエ/初版2022年1月11日)

このところ、食料品など生活に身近な商品の値上げが相次ぎ、ロシアのウクライナ侵攻の影響もあって、さらに拍車がかりそうです。

これで給料も上がっていけば、デフレ脱却につながっていくのかもしれませんが、今の経済情勢では、どの会社も賃上げというのは厳しいかもしれません。

本書は、日本銀行出身で、マクロ経済学者の著者が、「物価の本質」を一般の人に向けて説き明かすもの。

著名な物価理論や研究成果をもとに、具体的な事例も紹介しながら、物価の作られ方、物価の変動理由、物価のコントロール方法を解説し、日本がデフレから脱却できない理由にも迫っていきます。

経済の話はどうも苦手。専門書でないとはいえ、本書の内容をすんなり理解できたとは、とても言えません。

ただそれでも、学者が究めた物価理論を駆使しても、物価の予測は難しいことや、消費者のメンタリティも影響するため、物価のコントロールは容易ではないことを思い知りました。

また、「スキャナーデータ」が物語る“大企業の責任”や“物価の地域間格差”といった話は面白く、物価には「ノルム」(社会の人々共有する相場観)が影響し、個々人のインフレ予想には人生でのインフレ経験が影響しているといった話は新鮮。1974年の狂乱物価の原因が日銀にあったというのは驚きでした。

その一方で気になったのは、日本における価格硬直性の高まりについて。

本書によれば、米国や英国、ドイツに比べ、日本の消費者は値上げに対する拒絶反応が強く、そのため企業は、値段は据え置きのまま商品の小型化・減量という“ステルス値上げ”を実施。

消費者も、そんな異形の値上げを当然のように受け止めているとのことです。

ところが、企業にとって商品の小型化・減量は“後ろ向きの商品開発”と同じ。

著者は、「コスト削減のための労力を本物の商品開発に使えば、これまでに見たことのない新商品が生まれ、多くの消費者を喜ばせることができるはずで、現場は悔しいはず。」

「価格の据え置きの常態化は、現場の技術者から前向きな商品開発に取り組む機会を奪うというかたちで、社会に歪みを生んでいる」と述べています。

価格据え置きの慣行が企業の力を削ぎ、日本経済の凋落につながっていくとしたら、それこそ一大事です。

政府は企業に賃上げを要請し、デフレ脱却に躍起ですが、いくら懐が温かくなっても、将来の不安が残ったままでは、消費マインドはなかなか上向かないかもしれません。

「○○キャンペーン」もいいですが、社会政策的にも、国民が安心やゆとりを感じられるような手を打ってほしいものです。