読後ノート2022年No.11は、『物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国』(著者 黒川祐次/中公新書/初版2002年8月25日)
ロシアのウクライナ侵攻が始まって2カ月が経ちますが、停戦の見通しは立たず、市民の犠牲は拡大するばかりで心が痛みます。
本書は、ウクライナの大使も務めた著者が、ウクライナの歴史をたどりながら、国の姿かたちを明らかにするもの。
紀元前のスキタイの時代から、1991年の独立まで、時代ごとの権力の動きや政治のしくみ、社会の様相、代表的な人物、特徴的な文化などが簡潔に紹介されています。
「ウクライナ」といっても、今まで特に関心を持ったこともなく、頭に浮かぶのは、ソ連邦の一員だったことや、小麦の産地といったくらいのもの。
9世紀頃、ウクライナの地に「キエフ・ルーシー公国」が建国されたものの、モンゴルの侵攻以降、ウクライナは周辺の国家・民族に脅かされ、従属させられ、支配され続けてきたこと。
そして1991年、ソ連邦からの独立によって、夢だった「真の独立」がようやく現実になったことを改めて知りました。
それだけに、独立が脅かされている今の事態は、ウクライナの人々にとって屈辱的なことに違いありません。
本書では、ウクライナの文学者タラス・シェフチェンコ(1814~61)の『遺言』という詩が紹介されています。
シェフチェンコは、ウクライへの愛情とウクライナの隷従からの解放を真摯かつ直截歌い、またロシアに対する怒りも大きかったそうですが、強く心に残ったのはこの作品の次の一節。
わたしを埋めたら
くさりを切って 立ち上がれ
暴虐な 敵の血潮と ひきかえに
ウクライナの自由を
かちとってくれ
そしてわたしを 偉大な 自由な
あたらしい家族の ひとりとして
忘れないでくれ
やさしい ことばをかけてくれ
(訳 渋谷定輔・村井隆之)
まさに今のウクライナが思い起され、何ともいえない気持ちになりました。
ところで、朝日新聞に掲載された、岩下明裕・北海道大学教授のインタビュー記事によると、ウクライナ侵攻の背景には、脈々と続くロシアの大国主義と、プーチン大統領の「ポスト冷戦期の新しい秩序作りへの挑戦」があるようです。
いかにもありがちな振舞いですが、どんな理由があるにせよ、勝手に武力侵攻し、平穏な暮らしを破壊し、罪のない人々の命を奪うなど、理不尽極まりないことで、許されるはずがありません。
一刻も早く停戦してほしいと願うばかりです。