えむと、メモランダム

読んだ本と出来事あれこれ

『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在り』を読みました。

読書ノート2024年の1冊目は、『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在り』(著 酒井聡平/講談社/装幀 相京厚史/初版2023年8月28日)。いろいろあって、1年ぶりの投稿です。

硫黄島は太平洋戦争で有数の激戦地。梯久美子さんの著書『散るぞ悲しき』や、渡辺謙さん主演の映画『硫黄島からの手紙』は、心に残り続けています。

けれど、来年は戦後80年を迎えるというのに、2万2千人に上る戦没者のうち、まだ1万人もの遺骨が島に眠ったままという事実は、本書で初めて知ることになりました。

本書は、北海道新聞の記者である著者が、13年間抱き続けた「祖父の戦友ともいえる硫黄島の戦士たちの遺骨を本土に返したい」という思いを胸に、硫黄島の遺骨収集団に加わって遺骨収集の現状を伝えるとともに、なぜ収集が進まないのか、その謎に迫ったノンフィクション。

「硫黄島での遺骨収集」という願いを叶えたい一心で、簡単ではない遺骨収集団への参加に奔走する著者の姿や、熱とガスに苦しむ中で懸命に行われる遺骨収集の様子が綴られるとともに、著者の執念ともいうべき丹念な取材と調査から、島で繰り広げられた戦争の実態が明らかにされ、遺骨収集を妨げてきた事情が浮かび上がってきます。

硫黄島の死闘は知っていても、その後、島がどのような歴史を歩んだのか気に留めることもなく、まして残された遺骨のことなど今まで考えたこともありませんでした。

それだけに、初めて知った遺骨収集の一部始終は心に強く残り、参加者の深い思いや、戦没者に対する敬意は胸に染みてきます。

一方、「島の軍事利用」、「アメリカ(米軍)への過度な忖度」といった、遺骨収集が進まなかった理由は思いもかけないもので、アメリカの影響から免れない日本の戦後を映し出しているよう。しかも日本政府の姿勢は曖昧なままで、釈然としないものが消えることはありませんでした。

本書によれば、今のペースだと、すべての戦没者の帰還が終わるのは西暦2184年とのことで、これでは遺骨どころか、硫黄島の痛ましい歴史も消え去りそう。80年もの間帰れないでいる戦没者のことを思うと、「一刻も早く帰還を実現してほしい」と願わずにはいられません。

著者は、5年間の東京支社勤務から北海道に異動する直前、皇室担当として天皇陛下の誕生日会見に参加し、必死の思いで陛下に「硫黄島」に対するお気持ちを質問します。

おそらく最初で最後の機会であったこと。30人近い記者のなかで、わずか二人だけに許される「関連質問」の指名を受けたこと。そして陛下から、硫黄島の悲惨な戦いを残念に思う気持ちが表明されたこと。

「硫黄島の戦禍を風化させてはならない」という、著者の強い思いがあってこその奇跡的とも言うべき出来事ですが、著者の傍らに戦没者の魂を見た気がしました。