読書ノート2024年の2冊目は、『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方』(著 大江英樹/光文社新書/初版2023年3月30日)。
大江さんは、定年退職後にサラリーマンから経済コラムニストに転身された方。大江さんの著者『定年楽園』との出会いがなければ、私の転身はなかったかもしれません。
私にはお手本のような存在だっただけに、新年早々の訃報は思いがけないものでした。
本書は、大江さんが「お金を増やすこと」だけに目が行きがちな日本人に対し、人生を豊かに生きるための「お金の使い方」を説いたもの。
前半では、日本人のお金観やお金の本質、お金を増やすことの意味を考え、後半で、人生を豊かにするお金の使い方、減らし方について、大江さんの考えが示されています。
大江さんによれば、日本では「老後不安」という正体不明の不安があるために、多くの人がお金を増やすことに意欲を燃やすようになるとのこと。
ところが結果的に、「死ぬ時に最もたくさんお金を持っている人」がたくさん生まれているようです。
もちろん、誰もがそうなるとは限りませんが、大江さんは、自らの体験からも「老後不安」は“ナラティブ(物語)”に過ぎないと断言。だとすれば、「増やすこと」だけにとらわれて人生を終えるのは、意味のないものに思えてきます。
では、貯めたお金をどう使うのか。大江さんはお金の使い方として、「見栄」と「義理」に使う以外、「本人が価値を認めているものなら、どんなお金の使い方をしてもよい」と言っています。
その意味は、人生を豊かに過ごすために、お金は「人からどう見られているか」よりも、「自分がどれぐらい楽しいか」に使うべきということ。
本書では、自身の体験も交えて、「好きなこと」、「思い出」、「人」そして「価値」にお金を使うことの楽しさや効用を紹介しています。
誰もが同じようにできるとは限りませんし、この先、果たしてどれほどお金が自由になるのかわかりません。
ただ、大江さんが言うように、人生で最後に残る大切なものが「思い出」ならば、せめてそのためにお金を使いたいものです。
大江さんは最後に、「時間」、「信用」、「健康」、「幸福感」は、お金より優先すべきであるとし、さらに、「お金に対する尊敬ではなく、モノやサービスに対する尊敬」、そしてそれを提供してくれる「人」に対して敬意を払うべきだと述べています。
それは、お金に振り回されずに幸せな人生を送ってほしいという、大江さんの願いであり、大事なことを見失っている日本人への戒めに違いありません。
大江さんの思いを受け止め、これからの人生をどう生きるか、もう少し深く考えたいと思っています。
大江さんのご冥福を心よりお祈りいたします。